魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
水無瀬が席を立ち、CAたちが乗客を迎える準備を進めているキャビンに出ていった。
久遠さんは彼の背を見送り……。


「お前は、食べ物にも好みがないんだな」

「え?」

「お前にミールの選択権を譲っても、答えが返ってきた試しがない。機長に遠慮してるのか?」


ちらりと視線を流され、俺は虚を衝かれた。


「実は優柔不断で決められない男とか」

「食べ物の好き嫌いはないので、どっちでもいいんですよ」


はは、とぎこちない笑い声を交えて答える。


「つまり、好きも嫌いもないから、どうでもいい」


皮肉めいたニュアンスで返され、グッと口ごもる。
俺が黙って目を逸らすと、久遠さんはひょいと肩を動かした。


「お前は、俺と同類だと思ってた」

「え?」

「パイロットは、その職業名だけでやたらチヤホヤされる。勘違いから天狗になるアホもいるが、神凪はそれを誇りとは思っていない。空にも飛行機にも……女同様にドライだ」


熱意がないと、咎められたのかと思った。
だが、自分と『同類』と言うからには、そういうことではないのだろう。
久遠さんは、俺の困惑を見透かしたのか、


「そんなお前が変わるとしたら女だろうと思っていたが……当たりだったな」


ニヤリと笑われ、俺は居心地悪くなって目を伏せた。
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