魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「……つまり、キャプテンもですか?」

「え?」

「キャプテンも、パイロットである自分が誇りではない。でも、彼女と出会って変わった。そう自覚している」


探るように視線を向けると、まっすぐこちらを見返した彼とバチッと目が合った。


「ああ」


久遠さんは、頷いて即答した。


「どこかで彼女が見てるかもしれないと思うと、カッコつけたくなるからな」

「っ、え?」

「イイとこ、見せたくなる」

「…………」


意外な発言に呆気に取られ、俺は口を噤んだ。
その続きを待って息を潜めていると、彼はふっと眉尻を下げた。


「だが、操縦に色気を出すのは、コーパイのお前にはまだ早い」

「は……」


俺は煙に巻かれた気分で、きょとんとしてしまった。
久遠さんは構うことなく、瞬きを繰り返す俺の手元、フライトプランにトンと指を置く。


「羽田着陸時。雨風が強まり、荒天が予想される。パイロット泣かせのウィンドシアー発生の可能性もありそうだ」


一転して厳しく引き締まった横顔を見遣ってから、俺もハッとしてフライトプランに目を落とした。


「ランディングはお前に任せるつもりだ。神凪。俺の手を借りずに、いつも通り冷静に魅せられるか?」
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