魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
挑発のような確認に、俺はゆっくり目線を上げた。


「はい。任せてください」


きっぱりと告げて、まっすぐ前を向く。
フロントガラスの向こうには、シャルル・ド・ゴール空港の広いターミナルビルがある。
ゲートを行き交う人々の姿を見据え――。


「カッコつけてイイとこ見せるより、飛行機を大事にした方が喜ぶ女なんで」


視界の端に、久遠さんがわずかに目を細めた様が映った。
それと同時に、インカムのイヤホンにザザッとノイズが走る。


『コックピット。給油完了です』

「了解。ありがとうございます」


俺はインカムの位置を直しながら、グラウンドの整備士に短く応じた。


「給油完了だ」


久遠さんが、肩越しに背後を見遣って告げる。
水無瀬が、コックピットに戻ってきていた。


「貨物搭載も、まもなく開始だそうです」


二人のやりとりを聞きながら、俺は副操縦士席側の窓からグラウンドを見下ろした。
そこに捉えた数人の整備士に、なんとなく芽唯の姿を重ねた。


前に、水無瀬から聞いたことがある。
瞳は佐伯に、全搭乗が済みドアクローズする時、彼が地上から見せる笑顔と敬礼に励まされると言った、と。


俺はまだ、そうやって芽唯に見送られたことはない。
だがそう遠くない未来、その時が来たら――。
俺はその姿に、なにを思うだろう。
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