魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
全乗客が搭乗し、ドアがクローズした。
飛行機はトーイングカーにプッシュバックされ、ターミナルから離れていく。


『JK10, Wind 310 at 5, Runway34 Cleared for Takeoff』


誘導路に入る手前で、管制タワーから指示が入った。


「JK10, Runway34 Cleared for Takeoff」


34滑走路からの離陸許可を復唱する。


「I have」


久遠さんが、俺に告げた。


「You have」


俺はそう応えてから、ちらりと窓の外を見遣った。
整備士が二人立ち、こちらに向かって大きく手を振っている。


俺は狭い窓越しに、彼らに敬礼で挨拶した。
整備士たちは、俺の仕草に気付いたのか、ピタリと足を止めた。
しゃんと背筋を伸ばし、キビキビとした敬礼を返してくれる。


夜も更け濃い闇の中、誘導灯に照らし出され、その表情が確認できる。
自信と誇りに満ちた晴々しい笑みに導かれ、俺の鼓膜に刻まれた言葉が脳裏に蘇った。


『元気に飛ばしてあげてください』


あれを彼女は、どんな思いで俺に告げたか。
きっと、人の手に託すことが歯痒いだろう。
ほんのちょっと悔しさもある?
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