魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
大事に整備した飛行機をパイロットの手に委ねる、整備士の思いは万国共通だ。
だから俺たちは、彼らの信頼を得られるパイロットで在らねばならない。
まるで我が子のように手をかけた飛行機を、安心して託してもらえるように――。


「You got it」


俺は軽く親指を立てて呟いた。
それが聞こえたのか、久遠さんと水無瀬が吐息を交えて笑う。


「頼もしくて結構だが。神凪、誘導路に入るぞ」

「はい」


久遠さんに返事をして、俺はベルト着用サインを出した。
最終離陸態勢に入ったことを伝えるため、キャビンでは『ポンポンポン』と電子音が繰り返される。


いつも滑走路渋滞が起きる空港だが、今日は運がいい。
誘導路の前を行く他機との間隔も十分だ。


「Right side runway clear」

「Roger.Rolling take off」


ブリーフィング時に告げられたローリングテイクオフの指示を受け、俺はエンジン出力を設定した。
久遠さんが誘導路を走行させる横で、エンジン計器類のパラメーターが安定しているのを確認し、「Stabilize」と伝える。


タワーからの待機命令はない
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