魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
機体はエンジン出力五十パーセントで滑走路に進入し、速度を上げて走り出した。


「Eighty」


俺は、速度80ノットをコールした。


「Checked」


操縦桿を握る機長が、自身の目で計器やビジョンを確認してレスポンスするまで、ほんの二秒ほど。
この間も、機体は加速を続けている。


俺はエンジンや計器類に異常を示すメッセージが出ていないか、数値にも注意を払った。
もしこの時点でなんらかの不具合が見つかれば、離陸決心速度を超える前に離陸を中止せねばならない。


「V1」


後はもう飛び立つ以外ない。
久遠さんの手が、スラストレバーから離れた。


「VR」


ローテーション速度で操縦桿が手前に引かれ、機首が上がった。
メインギアが滑走路から浮き上がり、機体は糸で引かれるようにスーッと上昇していく。


「V2」

「Positive.Gear Up」


安全離陸速度に達し、久遠さんがギア格納の指示を出した。


「Roger,Gear Up」


俺はギアレバーを操作した。
ギアが上がり切ると、レバー上部にある三つのライトが消える。


「Up No Light」


無意識に吐息を零す間にも、タワーから次の指示が入る。
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