魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「遅くなりました!」


声と一緒に、バタバタと足音が近付いてきた。


「おー佐伯。残念、一分遅刻だ」

「マジか……すみません」


からかい交じりに言われた佐伯さんが、主任にペコリと頭を下げる。


「仕方ない仕方ない。ただ、当分俺たち三人で回さないといけない」

「え。みんな来れないんですか」


私が目を瞠って質問を挟むと、主任がひょいと肩を竦めた。


「モノレールは運転見合わせ、電車は大幅に遅延。首都高も通行止めやら速度規制してるからな……。あと三人は、いつになることやら」

「困りましたね。着陸できた機体も、いつも以上のチェックをしてからじゃないと、次のフライトに出せない。どう考えても人が足りない」

「ああ。だがお前たちが昨日のうちに代替機を手配してくれたおかげで、今のところ、出発便の方は回ってる。到着機は一旦ハンガーに戻して、入念にチェックするぞ」

「はい」


佐伯さんは厳しい顔で頷いて、主任に了承を示した。
私たちの前を通り過ぎ、滑走路の方向へ歩いていく。


風が強すぎて、ハンガーの中にも雨が吹き込み、扉付近の床は濡れて変色している。
佐伯さんは、ギリギリの境で立ち止まった。
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