魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
頭上に広がったのは、日の出を迎えたばかりの空だった。
羽田空港の広大な滑走路がすぐ目と鼻の先にあるため、空を仰いだ時、視界を遮るものはなにもない。
朝焼けのオレンジ色に目が眩み、思わずその場に立ち止まった。


ほんの二週間前までは、このくらいの時間に格納庫から出ると、空はもっとすっきり明るくなっていたけど、十月も半ばを過ぎて少し日の出が遅くなった。
私が太陽に目を慣らしている間にも、飛行機はロールプレイングゲームのラスボス登場よろしく、雄大に誘導路に進んでいく。
私の頭の中に、壮大なBGMが再生されるほどに。


椎名(しいな)! ツールの員数チェックと返却頼む! 終わったら、先上がっていいよ」

「はいっ。お疲れ様でした!」


横を過ぎていくトーイングカーの中の佐伯さんに、私も声を張って返事をした。
格納庫の正面に立ち、大きな大きな機体と真っ向から目を合わせる。
この仕事を始めて今年で四年目だけど、自分が整備した飛行機が格納庫から出る時と、滑走路から飛び立つのを見送る時は、いつも変わらず胸が熱くなる。


ピカピカに磨き上げたボディに、東の空に昇った朝日が反射してキラキラと輝く。
眩しい。
物理的にも感覚的にも偉大すぎるけど、我が子の巣立ちを見守る母親のような気分で誇らしい。


――早く飛びたいって、ウズウズしてる。
私は、思わず目を細めた。
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