魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「それで、あなたの本当の職業を誰も知らない合コンなのをいいことに、航空整備士のフリをしたってわけですか」


先を引き取って畳みかけると、彼は「そうそう」と軽い調子で相槌を打った。


「お前にもない? 本当の自分とは違う……たとえば、CAを演じてみたくなるとか」


今度は共感を求めてきたけれど、私が彼に向ける目はますます険しくなる。
あいにく、私はCAに憧れたこともない。
詰ることも共感もせず、無言で睨むだけの私に、神凪さんは溜め息をついて……。


「時間ある?」


左手首に嵌めた、男っぽいゴツい腕時計に目を落とす。
海外高級ブランドのオメガ、スピードマスター……正確に時を刻む高性能なムーブメントとスタイリッシュなデザインが人気で、フライト時に愛用するパイロットが多いと聞いたことがある。


「ないわけないな。合コンはたった三十分で出てきたことだし」


神凪さんは訊ねておいて、私の返事を待たずに勝手に決めつけた。
そして。


「え? あっ、ちょっ……!」


有無を言わせずに私の手首を掴み、そのままさっさと歩き始めた。
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