魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
遠慮の欠片もなくズケズケ話していた神凪さんが言葉を切り、ギョッとしたように目を瞠った。
グラスをカウンターにドンと力強く戻した私に、呆気に取られている。
私は彼の視線を気にせず、唇を手の甲で拭った。


「佐伯さんは、とても立派な人です。それに私も、航空整備士の仕事を恥ずかしいだなんて思ってません」


一瞬脳裏によぎった元カレの顔を、ブルッと頭を振って吹き飛ばした。
肩を上下させ、ふうっと息をつく。


「ああ……いや、お前さ。それ一気飲みして、大丈夫か?」

「うるさいな。放っといてくださいよ」


今さら遠慮がちに探ってくる彼からプイと顔を背け、隣の椅子に置いたバッグをゴソゴソと漁る。


「あなたと話してる時間ももったいないので、私帰ります。佐伯さんに借りたDVD観たいんで」


バッグから取り出した財布から一万円札を抜き取り、カウンターに叩きつけた。


「ご馳走するって言ったろ。自腹にしても、そんなにいらない」


もちろん私だって、カクテル一杯でそんなにするとは思っていない。
百パーセント皮肉。嫌味だった。


「いいえ。どうぞお納めください」


頑固に押し切り、背の高い椅子から颯爽と床に降りた……つもりが。


「……っ?」


いきなりガクンと膝が折れ、私はその場に頽れてしまった。
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