魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
彼の手を借りず、自力で立ち上がる。
神凪さんが、「は?」と眉をひそめた。


「ホテルに連れ込んだりしないって言ったくせに」


私が頬を膨らませて詰ると、ハッと短く浅い息を吐く。


「じゃあ、あのまま路上に放置しときゃよかったか?」

「え?」

「店の迷惑になるから連れて出たはいいが、お前は自分の住所も言える状態じゃなかった」

「う……」


腕組みをして、上目遣いにねっとりと睨まれ、私は不覚にも返事に窮した。


「このラブホが一番近くて手っ取り早かったんだよ。それともなんだ? 荷物漁って、身分証明書探してよかったか? 俺の家に連れ帰った方がよかったか?」

「……ご迷惑おかけして、申し訳ありませんでした……」

「最初からそう言え」


殊勝になって頭を下げると、神凪さんは横柄にふんと鼻を鳴らした。
――正直、この人やっぱり、腹立たしい。
でも今、私は圧倒的に立場が弱い。


私にできることは、一刻も早くこの場から退散することのみ。
自分のバッグを探して、視線を動かした、その時。


「まあ、ちょうどいい。ここなら誰にも邪魔されない。話の続きをしよう」

「は……きゃっ!?」


いきなり手首を掴んで強引に引っ張られ、私はバランスを失ってベッドにドスンと座り込んだ。
入れ違いで立ち上がった神凪さんが、ソファの方へ歩いていく。
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