魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
袖の金色の三本ラインが神々しい、黒いジャケット。
しっかりとネクタイを締め、制帽を小脇に抱えた寸分の隙もない制服姿の副操縦士が、眉一つ動かさずに佇んでいる。


神凪さんは遥に軽く目礼して、私を見下ろした。
黙って上着のポケットに手を突っ込むと、そこからなにか取り出し、私の前に滑らせる。


「なに……」


彼の手元に目を落とした私に……。


「酒代とホテル代。女に払わせたままにしておけないから」

「え? ええっ……!?」


二つに折り畳まれた一万円札二枚に、遥が私より先に目を剝いて反応した。
神凪さんは、あまりの事態に凍りつく私に構わず、


「じゃ。確かに返したから」


涼しい顔で、テーブルを通り過ぎていった。
遥が、彼の背と私を忙しなく見遣る。


「ちょっ、芽唯!? 酒代はともかく、ホテル代ってどういうこと!?」


ガタンと音を立てる勢いで椅子から立ち上がり、テーブルに置き去りにされたお札を食い入るように見ている。


「も、もしかして。この間の合コンで……」

「っ、ご、ごめん、遥っ」


私は一瞬の金縛りから解け、弾かれたように腰を浮かせた。


「私の分、片付けておいて。お願い!」

「え? あ、芽依っ!?」


お札を引っ掴んで握りしめ、遠ざかっていく制服の背中を追いかけた。
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