魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
本気で惚れさせて
私は職員食堂から通路に飛び出し、左右をキョロキョロ見回した。
神凪さんは無駄に足が長いから、歩くのも早い。
見渡す限り、彼の背中は見つからない。


でも、帽子を抱えていたのは、これからフライトがあるからだろう。
それなら、行き先はオペレーションコントロールオフィスのディスパッチルーム。
通称東京OCO。
羽田空港ターミナルと隣接した、マネージメントセンタービル内にある。


パイロットが運行管理部のディスパッチャーからフライトプランを受け取り、ブリーフィングを行う場所。
私も、使用機材に関する情報や資料の提出で関わる部署だ。
私は迷わず右手に走った。


ターミナルビルから出ると、頭上はすっかり夕焼けの空だった。
神凪さんは、これからナイトフライトか――。
一瞬よぎったどうでもいいことは頭から吹き消し、一心不乱に走ったおかげで、神凪さんがビルに入る前に追いつくことができた。


「神凪さん、神凪さんってば……!」


何度声をかけても振り返らないから、最後は上着の背中を掴み、半ば怒鳴るように呼びかけた。


「え?」


彼はやっと足を止めてくれた。
どうやら、ワイヤレスイヤホンを装着していたようだ。


「こ、れっ……」


私は苦しい息の中で声を絞り、彼が置いていったお札を突き返した。
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