魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
「言うねえ」

「と、とにかく、これはお返しします」


私は一歩踏み出し、強引に彼の胸に押しつけた。
神凪さんが受け取ってくれないから、私も手を引っ込められない。
顎を引いて私を見下ろす彼と、見上げる私。
無言の静かな堂々巡りを続けた後――。


「顔に似合わず頑固だな、お前」


神凪さんが眉間に皺を寄せて、私の手からお札を抜き取った。
私はそれを確認して、手を引っ込めようとして……。


「!?」


ほんの一瞬でその手を高く掴み上げられ、ギョッとして振り仰いだ。


「っ、ちょっ……」

「この時間に休憩ってことは、遅番だろ? 俺、伊丹行って帰ってくるから、十一時頃になるかな。着替えて、ここ集合」


神凪さんは私の抵抗をまったく気にせず、もう片方の手で地面を指し示す。


「……は?」

「この間の続き。これで、最初から仕切り直そう」


不信感を激らせて眉をひそめる私に、文字通り上から目線で、軽くお札を振ってみせる。
下から見上げる角度のせいか、なにか企んでいそうな薄笑いが、一層胡散臭い。


「お断りいたします」


私は肩を動かして彼の手を払ってから、大きく一歩飛び退いた。
神凪さんが、お札を指に挟んだまま、鷹揚に腕組みをする。
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