魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
『じゃあな』とだけ言って、そそくさと駅に向かうやけに縮こまった背中を見送ったのが最後。
彼から連絡が来ることはなく、私からもしなかったから、そのまま自然消滅的な終わり方をした。


理由はもちろんわかっている。
オフィス街で働き洗練された彼は、技術職で野暮ったい私を連れているのが恥ずかしかったのだ。
だから別れて正解だったと思う。
だって仕事を覚えた今、私の身体にはあの時よりも油の臭いが沁みついている。
会う度にあんな風に眉をひそめられ、肩身の狭い思いをするくらいなら、恋人なんていなくていい――。


それから私は空いた時間のすべてを勉強に費やし、知識の吸収に努めた。
恋から遠ざかったまま二十六になった今年、友人から結婚式の招待状第一号が来た。
きっとこの先、年々こういう便りが増えていくだろう。


ほんのちょっと羨ましい気持ちは否定できないけど、今は仕事が一番楽しい。
一生独りでも、普通に食べて暮らしていける仕事はあるし、十分満足だ。
恋なんて、もう懲り懲り。
そう思っていたのに――。
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