魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
私は今日早番で、午後三時で仕事を切り上げた。


「それじゃ、お先に失礼します」


ツールを返却してハンガーに戻り、事務所で航空日誌の整備記録をしていた佐伯さんに声をかけると。


「あ、椎名」


彼が椅子からスッと立ち上がり、私を呼び止めた。


「はい?」


一瞬ドキッと跳ねた胸を気にしながら、ちょっと怯んで答える。
佐伯さんは私の方に歩いてきて、目の前で足を止めた。
わずかに視線を彷徨わせてから、


「ごめん」


言いにくそうに謝る。


「え?」

「さっき。神凪とのこと」

「! いえっ!」


グシャッと髪を掻き回す彼に、私は弾かれたように背筋を伸ばした。
あの後は意識して平静を保って仕事を続けられたのに、思い出すと顔が熱くなる。


「あの、本当に気にしないでくださいね、神凪さんが言ったこと……」

「ああ、うん」


佐伯さんは、わずかに視線を逸らした。
気遣わせてる。
ぎこちない空気が居た堪れない。


「佐伯さんが釘刺してくれて助かりました。あの人……神凪さんって、ほんと勝手だから」


神凪さんを詰ることで気を取り直しながら、なにか胸がチクッとした。


「私の気持ちなんかお構いなしで、なんでも言いたい放題したい放題でからかってばかり……」


――なんだろう。
紛れもない本心なのに、言い募るごとにズキズキとした痛みが胸に広がっていく。
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