魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
『どんな?』と質問されたら、答えられない。


「今野さんが謝ることないです。驚いてもいませんから」


そう誤魔化して、コーヒーのカップを口に運んだ。
今野さんは、私の反応にちょっと戸惑った様子で、自分のカップを持ち上げる。


「あなたは、神凪君にもよく似てる」


口をつけずにユラユラ揺らし、言い回しを考えるようにポツリと呟いた。


「似てる?」

「彼も昔から空や飛行機が好きで、パイロットになったから」

「……昔、ですか」


私は、ぎこちなく笑った彼女の言葉尻を拾って訊ねる。


「あ。もしかして、彼から聞いてない?」


今野さんはカップをテーブルに戻して、首を傾けた。
私が瞬きを返すと、困ったように眉をハの字に下げて、「まったく」と独り言ちる。


「自分でちゃんと説明するって言ってたのに……」


唇を曲げて溜め息をつく彼女に、私の胸がチクッとした。
追いかけてきた彼の話を、私は聞かなかった。
あの夜の電話も説明したかったからで、メインギアはただの口実だった――?


スマホが入っているバッグに、無意識に視線を走らせる。
今野さんは私を視界の端で窺いながら、ふうと息を吐いて両手で頬杖をついた。
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