魅惑な副操縦士の固執求愛に抗えない
エンジンブレーキと車輪ブレーキ、さらにリバーススラストを駆使して、およそ三千メートルの滑走路を走る間に飛行機を減速させなければならない。


無事減速した機体を操縦して誘導路に進むと、マーシャラーの姿を見つけた。
パドルの信号に従って進入角度を調整しながら駐機スポットに進み、両腕を高く突き上げる合図でピタリと停めた。
マーシャラーがこちらに向かって深々と頭を下げる。
俺も音羽さんも敬礼で返した。


ベルト着用サインを消すと、乗客たちが降機準備を始め、背後のキャビンがやや騒がしくなる。
乗客たちとは別の開放感から、俺は軽く顎を上げて低い天井を見上げた。


「神凪君、今日はどうした?」

「え?」


音羽さんにそう問われ、視線を流す。


「八幡平上空で、シアーラインの予測が遅れただろう。あれ、いつもの君なら完全回避できたはずだと思うが?」


ちらりと横目を向けられて、俺はきゅっと唇を結んだ。
シアーラインとは、風向きや風速が急速に変化している地点を結んだ線のことだ。
このラインを飛行機が通過する時、向かい風が増加、または減少するため、機体を浮かす揚力に影響を受けやすい。


ご指摘通り、読みが甘かった。
完全に避け切ることができなくて、左の主翼が引っかかった。
< 96 / 222 >

この作品をシェア

pagetop