白鳥に魅入られる

椅子に座ったまま動けないましろに、両親と姉は雨のように悪口を浴びせてくる。泣き出してしまいそうになるが、この人たちの前で泣くわけにはいかない。それが、ましろの小さなプライドだった。

椅子から勢いよく立ち上がり、三人の言葉を無視してモーニングルームを飛び出し、調度品が並んだ廊下を駆ける。使用人に睨まれるが、あの罵詈雑言よりはマシだ。

屋敷を飛び出し、人気のない場所へとましろは走る。通りをいくつも抜け、ましろが辿り着いたのは小さな池だ。蓮の花が咲くこの池は、人が滅多に訪れないためましろのお気に入りの場所である。ここならば、どれだけ泣いても誰にも咎められない。

「ッ！うぅ〜……」

ここに着いた瞬間、ましろの両目から涙が溢れていく。子どものように泣きじゃくり、乱暴に涙を拭う。

肩を震わせながら泣いていると、ましろの耳にバサバサという音が聞こえてきた。静かな池に、今まで耳にしたことのない音が響いている。

「何？」