先生と私の三ヶ月
※※※
先生とモンサンミッシェルを昼に発ち、午後3時頃青空が広がるパリに着いた。今日の気温は21度でパリは意外と涼しく、半袖Tシャツにジーパンという服装が少しだけ肌寒い。無意識に腕をさすっていたら、先生が着ていた長袖のライトグレーのカーディガンを脱ぎ、私の肩にかけてくれた。ふわっと香る甘い匂いに、先生を感じて、心臓がドクンって高鳴った。
「先生、あ、あの」
「着てろ。風邪ひかせる訳にはいかんからな」
「先生は寒くないんですか? 確か寒がりでしたよね?」
襟のある藍色の長袖シャツ姿の先生に視線を向けると、「全然」と言って先生が微笑んだ。胸にキュンって響く。やっぱり先生は優しい。でも、こんな風に優しくされると、なんか調子が狂っちゃう。フランスで再会してからの先生は別人みたいに優しい。双子の弟説が再び頭の中に浮かぶ。
「なんだ?」
私の視線に気づいた先生が眉をひそめる。
「先生、やっぱり双子の弟さんとかいません?」
先生がぶっと吹き出した。
「またその話か」
「だって先生が優しすぎるから」
「仕事としてアシスタントの体調を気遣っているだけだ。ガリ子が倒れたら取材にならんだろう」
仕事としてと聞いて、腑に落ちた。だけど今度は寂しくなる。仕事じゃなかったら、先生はカーディガンを貸してくれなかったんだ、なんて、余計に落ち込む事を考える。ああ、私って、悲観的だな。
「眉間に皺が出来ているぞ。今度は何が気に入らないんだ?」
少し不機嫌そうな先生の声が響いた。あ、この感じがいつもの先生って感じがする。
「それがいいです!」
笑顔を向けると先生がうん? と首を傾げた。
「先生はちょっと不機嫌そうな感じが丁度いいんです。横浜の家にいた時と同じように私の事は扱って下さい。先生が優しいと困るんです」
「困る? どうして?」
「それは……」
ドキドキするからとはさすがに言えない。先生にときめいている事を知られたくない。知られたら絶対に先生は面白がって、私をドキドキさせる事ばかりしてくる。そんな事されたら身が持たない。
「それはなんだ?」
「なんだっていいじゃないですか。先生、取材しましょう。この辺りの街並み写真撮ります」
先生に借りたままのデジカメを取り出し、歴史の趣きを感じさせるビルの写真を何枚も撮った。
先生とモンサンミッシェルを昼に発ち、午後3時頃青空が広がるパリに着いた。今日の気温は21度でパリは意外と涼しく、半袖Tシャツにジーパンという服装が少しだけ肌寒い。無意識に腕をさすっていたら、先生が着ていた長袖のライトグレーのカーディガンを脱ぎ、私の肩にかけてくれた。ふわっと香る甘い匂いに、先生を感じて、心臓がドクンって高鳴った。
「先生、あ、あの」
「着てろ。風邪ひかせる訳にはいかんからな」
「先生は寒くないんですか? 確か寒がりでしたよね?」
襟のある藍色の長袖シャツ姿の先生に視線を向けると、「全然」と言って先生が微笑んだ。胸にキュンって響く。やっぱり先生は優しい。でも、こんな風に優しくされると、なんか調子が狂っちゃう。フランスで再会してからの先生は別人みたいに優しい。双子の弟説が再び頭の中に浮かぶ。
「なんだ?」
私の視線に気づいた先生が眉をひそめる。
「先生、やっぱり双子の弟さんとかいません?」
先生がぶっと吹き出した。
「またその話か」
「だって先生が優しすぎるから」
「仕事としてアシスタントの体調を気遣っているだけだ。ガリ子が倒れたら取材にならんだろう」
仕事としてと聞いて、腑に落ちた。だけど今度は寂しくなる。仕事じゃなかったら、先生はカーディガンを貸してくれなかったんだ、なんて、余計に落ち込む事を考える。ああ、私って、悲観的だな。
「眉間に皺が出来ているぞ。今度は何が気に入らないんだ?」
少し不機嫌そうな先生の声が響いた。あ、この感じがいつもの先生って感じがする。
「それがいいです!」
笑顔を向けると先生がうん? と首を傾げた。
「先生はちょっと不機嫌そうな感じが丁度いいんです。横浜の家にいた時と同じように私の事は扱って下さい。先生が優しいと困るんです」
「困る? どうして?」
「それは……」
ドキドキするからとはさすがに言えない。先生にときめいている事を知られたくない。知られたら絶対に先生は面白がって、私をドキドキさせる事ばかりしてくる。そんな事されたら身が持たない。
「それはなんだ?」
「なんだっていいじゃないですか。先生、取材しましょう。この辺りの街並み写真撮ります」
先生に借りたままのデジカメを取り出し、歴史の趣きを感じさせるビルの写真を何枚も撮った。