先生と私の三ヶ月
 街を歩きながら、先生はパリについていろいろ話してくれる。

 例えばパリは京都と東京が一緒にあるような街で、今見えるパリの景色はそう昔と変わっていないらしいという事や、昔というのは日本で言えば幕末の頃で1860年代に江戸幕府からの命令でやって来た侍たちが見たオペラ大通りと今私が見ているオペラ大通りの景色はほぼ同じらしい事など、先生はパリについてよく知っているようだった。

 オペラ大通りはオペラ座正面から延びる道幅の大きな通りで、広い道路と歩道を挟み、六階建ての同じ高さの石積みビルが並び歴史を感じさせる。

「侍たちが歩いた通りには車なんて走ってなかっただろうな。その頃は馬車が走ってたはずだ」
 隣を歩く先生が立ち止まって道路を見た。

「想像してごらん」
 先生が穏やかな優しい目を私に向ける。

「何を?」
「今走ってる車とか、バスが全部馬車になった所」
「ああ、なるほど。侍たちが見た景色を見ようって事ですね」
 先生が頷く。

「馬車は荷物だけを積んだ物や、人を乗せた物があるんだ。人を乗せた馬車は豪華絢爛な細工がされていて、そこに乗っているのはオペラ座に向かう華美な装いをした男女だ」

「池田理代子さんの漫画『ベルサイユのばら』に出てくるようなやつですか?」
「そうだ。馬車が走る音を想像して。車輪の回る音や、馬の蹄が道路を蹴る音がしてくるだろう?」
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