先生と私の三ヶ月
 純ちゃんを好きじゃない……。

 考えてもみなかった。
 
 純ちゃんとお見合いで出会って、プロポーズをしてもらって、結婚式を挙げるまでは恋愛感情はなかったかもしれない。

 でも、初めて純ちゃんに抱かれた夜、純ちゃんの事が好きだなって感じた。そして、これから少しずつ純ちゃんを好きになっていくんだと思った。

 心がぐらぐらする。なんでそんな事はない、純ちゃんの事が好きだって先生に言い返せないの? 私は本当に純ちゃんを好きじゃないの? 胸が苦しい。この息が詰まるような悶々とした気持ちは何?

「好きだったら、旦那が他の女を見ていたら嫉妬で苦しくなるはずだ。ガリ子の話からはそういうのを感じられないんだ」

 黙ったままの私を先生が見つめた。

「嫉妬ですか」
「ああ、嫉妬だ。俺はガリ子の話を聞きながら嫉妬したよ」
「えっ」
 どうして私に嫉妬?
 瞬きをして先生を見ていると、先生が笑った。

「お前は鈍感な奴だな。ここまで言ってもわからんとは。それともわかっていて誤魔化しているのか?」

 私が鈍感? 先生は何の事を言っているの?
 考えるように先生を見ると、黒い瞳と視線が合った。吸い込まれそうになる程、澄んだ瞳で、いつも先生の目を見るとドキドキする。

「その顔は本当にわかっていない顔だな。しょうがない奴だな」
 先生がいきなり距離を詰めて、唇を私の耳元に近づける。

「朝までお前を抱きたい」
 耳の中に直接吹きかけるように低い声が響いた。
 
 ドキッ――!

 驚いて先生から離れると、腕を掴まれる。

「ダメか?」

 切なそうな瞳で見つめられ、心拍数が跳ね上がる。
 訳がわからない。先生にそんな事を言われるなんて。これはいつもの意地悪な冗談だよね? 私を困らせて楽しんでいるだけだよね?
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