先生と私の三ヶ月
 部屋に入ると、先生が電気を点ける。
 昨日泊まったホテルの客室の二倍以上の広さはあるけれど、デーンと置かれたダブルベッドが目につく。

 強引に先生にベッドに押し倒されるんだろうか? それで先生にワンピースを脱がされて、キスをされて……ああ、ダメ! そんな事許される事じゃない。

「ずっと木のように立っているつもりか?」
 ドアに貼りつくように立ったままの私に先生が笑いを含んだ声で言った。

 先生はベッドの近くにあるソファに足を組んで座り、ミニバーから取り出したミネラルウォーターを飲んでいた。私とは違ってとても余裕があるように見える。例えるならシマウマを追い詰めるライオン。私は肉食動物に狙われる、か弱き草食動物なのだ。

「おいで」
 優しい声で呼ばれて思わず、ローズレッド色のヒールを履いた足を一歩前に出すが、すぐに引っ込めた。これは肉食動物の罠だ。そばに行ったら捕食される。

「警戒しているのか?」
 ドアの前から動かない私に、先生が困ったような視線を向ける。

「当たり前です! あんな事を言われたら誰だって警戒します」
「そうだな」
 クスクスと先生が穏やかに笑った。
 さっきまでは別人のように思えたけど、バーで話を聞いてくれた時の優しい先生に戻った気がする。

「安心しろ。ガリ子が嫌がるような事はしないから。これでも俺は紳士なんだ」
「信じていいんですか? 近づいたらライオン、いえ、狼になったりしませんか?」
 先生があははと笑った。

「狼か。ガリ子が望むなら狼になってもいいぞ」
「望んでいません! 狼にならないで下さい!」
「じゃあ、帰る」
 先生がいきなりソファから立ち上がった。そしてドアの方に歩いてくる。すぐ目の前まで先生との距離が縮まった瞬間、頭の中で警報が鳴った。

「これ以上、こないで!」
 先生に向かって両手を前に突き出した。
< 131 / 304 >

この作品をシェア

pagetop