先生と私の三ヶ月

「油断したな、ガリ子」
　耳のすぐそばで先生の意地の悪い声がした。
　両手に力を入れて先生の胸を突いて、逃げ出そうかと思ったけど、このままでいたいと思う方が勝ってしまう。

　先生のぬるい体温が心地いい。耳を胸に押し付ければ鼓動も聞こえてくる。トクン、トクンって鳴る鼓動は、少し早くなっている気もする。私にドキドキしてくれているの？　それとも、お酒を飲んでいるから早くなっているだけ？　先生は本当に私を抱きたいと思っているの？　抱きたいと思うって事は私の事を――。

「先生、これはただの性欲の処理で、一晩限りのってやつですか？　それとも私を」
　声が震える。その続きを聞くのは怖い。

「好きだよ。好きだから抱きたい。遊び相手にお前みたいな真面目な女を選ぶと思うか？」
　見上げると黒目の大きな瞳が、真剣な目で私を見つめている。胸が熱い。全身を巡る血液までが煮えるよう。好きだなんて。言われ慣れていないからどうしたらいいかわからない。

「俺が嫌いか？」
　好きか嫌いかと問われれば、好きに決まっている。私の大好きな小説を書く人は意地悪な所もあるけど、やっぱり素敵な人だ。初めて会った瞬間から先生と関わってはいけないと思ったのは、きっと取り返しのつかない感情を抱いてしまう事を恐れたから。

「先生、いじめないで。その質問は答えられません」
　目頭が熱くなる。好きだと言いたい。けれど、私は結婚している身。純ちゃんがいる。