先生と私の三ヶ月
 目を開けると先生が、切なそうに瞳を細めている。

「ガリ子、お前を困らせる事はしない。だから俺の恋人になってくれるか?」
 恋人って響きが甘く胸に響く。

「何を言ってるんですか。先生」
「唇にキスもしないし、体の関係も求めない。だから、俺との契約が終わる9月30日まで恋人でいて欲しい」
「先生」
「頼む。このとおりだ」
 一歩私から下がると、先生が姫に忠誠を誓う騎士のように片膝をついて、私の手を取った。いつも偉そうな先生がそこまでの事を私にするなんて、夢を見ているみたい。

「先生……」
「頼む。お前が必要なんだ」
 必要って言葉が強く胸を打つ。

 こんな事引き受けてはいけない。絶対にダメ。

 でも、9月30日まで。期限付きの恋人。身体の関係さえ持たなければ、これは不純行為にはならない。
 頭の中でもう一人の私がそう囁いた。その声を聞いてはいけない。きっと今以上に先生を好きになって辛い事になる。そう思うのに、先生に見つめられて「はい」と頷いた。
< 135 / 304 >

この作品をシェア

pagetop