先生と私の三ヶ月
【Side 望月】

「先生、それって、めちゃめちゃ面白い展開じゃないですか!」
 スマホ越しの黒田の声が興奮する。

 ガリ子の部屋から自分の部屋に帰り、ガリ子と期限付きの恋人になった事を黒田に報告した所だった。

「唇にキスはしない。身体の関係は求めない。しかし、心は恋人としてって事ですよね。この後の展開はもう我慢大会みたいなもんですよね。互いに気持ちが高まるけど、肉体的な所にはいけないジレンマ。ああ、さすが望月かおるだ。面白い!最初の筋書きより全然面白いですよ!」

 面白いと言われれば言われる程、心が沈むのはなぜだろう。
 ただ、ガリ子に無理をさせない設定を提案しただけだった。

 今夜、強引に押せばガリ子は俺に抱かれたかもしれない。しかし、そうしたくなかった。あいつと体の関係を持ってしまったら、小説を書き終わった後も、離れられなくなる気がしたから。

 俺の言葉に揺れながらも、あいつは頑なに俺を突っぱねた。愛されていない旦那の為に操を立てて。そんなあいつがいじらしくて仕方ない。

 気づくと、あいつにのめり込んでいる。あいつを幸せにしてやりたい。旦那なんて忘れさせて俺の所に来いと言いたい。だが、ガリ子を利用して小説を書いている俺にそんな事を言う資格はない。

 それに、俺にはひなこがいる。
 俺はひなこに償いをしなければならない。その償いはこの生涯でひなこ一人だけを愛する事だと、あの日に誓ったんだ。どんなにガリ子を好きになろうと、ガリ子とは一緒になれない。

「先生、聞いてますか?」
 耳に当てたままのスマホから黒田の声がした。

「聞いてるよ」
「とにかく先生、傑作になる事間違いなしですよ!」
「当たり前だ。望月かおるが書くんだから」
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