先生と私の三ヶ月
 恵理さんに連れて来てもらったのは裏通りにある、お洒落なカフェだった。シャンゼリゼ通りからそんなに遠くないのに、テラス席に座る事が出来た。ここは穴場のカフェなのよと恵理さんが教えてくれる。確かに穴場かもしれない。恵理さんと会う前に見たシャンゼリゼ通りにあるカフェはどこもいっぱいだった。

「今日子ちゃん、ビール飲む?」
「えっ、カフェでお酒?」
 目を丸くすると恵理さんが笑った。
「パリのカフェでは普通にアルコールが飲めるのよ。時々、仕事終わりにこのカフェでビール飲んで帰るんだ」
「そうなんですか」
 また恵理さんの意外な一面を知った気がする。
「今日子ちゃん、飲もうよ。せっかくだから。もしかしてアルコールダメとか?」
「いえ。大丈夫です。じゃあ、お付き合いします」
 そう来なくっちゃっと言って、恵理さんが「ビエール」とウェイターさんに注文した。フランス語でビールの事はビエールと言うようだ。
 それから恵理さんが基本のフランス語を教えてくれた。ボンジュールはおはよう、こんにちはで、ボンソワはこんばんは。ウィがイエスで、ノンがノー。ありがとうがメルシー、お願いしますが、シィル・ヴ・プレ

 言われてみればフランスに来てから何度も耳にした言葉だった。ビールが運ばれて来ると、乾杯はサンテだと恵理さんが教えてくれた。

「サンテ!」
 恵理さんと声を合わせてビールで乾杯をした。
 喉を通る炭酸が美味しい。ワインよりも気楽な感じがしてビールが好きだ。
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