先生と私の三ヶ月

7話 先生の元奥さん

 八月。パリから帰国して一週間が経っていた。最近の先生は書斎にこもる日が増えた。黒田さんが、そういう時の先生は、小説に夢中になっている時だと教えてくれた。酷い時なんて一週間、食べる事も忘れて小説を書いているらしい。それで救急車で運ばれた事もあると聞いて心配になった。もう先生は二日も書斎にこもっている。ご飯は朝昼晩と書斎の外に置いているけど、手をつけている形跡がない。

「先生、今日子です。失礼します」
 トントンとドアを叩いて、書斎のドアを開けた。

「バカヤロー! 入ってくるな――!」
 机の前にいた先生にいきなり怒鳴られた。

「は、はい。すみません!」
 慌ててドアを閉めた。あー、びっくりした。いきなり怒鳴らなくてもいいじゃない。心配だったから様子を見に来たのに。

 でも、執筆の邪魔しちゃったのかな。入り込んで書いている時の先生は鬼のようだって、黒田さん言ってた。

 アシスタントとして失敗しちゃったかな。

 ドア前に置かれたままの手つかずの朝食を見て落ち込む。
 お盆を持って、階段の方を向いた時、ドアが開いた。

「ガリ子、ごめんな。怒鳴ったりして」
 後ろから先生にぎゅっと抱きしめられた。
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