先生と私の三ヶ月
 真奈美さんがじっと私を見つめる。
 何かおかしな事を言ったんだろうか?

「あなた、一ヶ月もよく持ったわね。今までの人は長くて3日だったのに」
「そうなんですか」
 先生と黒田さんからも何も聞いていなかったけど、私の前にもやっぱり先生のアシスタントっていたんだ。

「大抵は一日でやめるのよ。そうなるようにお兄ちゃんが仕向けているんだけどね」
「仕向けるって……」
「私も手伝うね。お昼ご飯作っているんでしょう?」
 真奈美さんがシンクで手を洗った。
「い、いえ。お客様にさせる事ではないので」
 真奈美さんがクスッと笑う。
「遠慮はいらないわよ。一緒に台所に立ちたいの」
「で、でも」
 申し訳なくて、何度か断るけど、結局は真奈美さんに押しきられて一緒にハンバーグを作る事になった。

 真奈美さんはテキパキと手を動かしながら、前にいたアシスタントの人たちの話をした。

 なんでも、先生はアシスタントたちに、夜中に何度もコンビニに行かせたり、膨大な量の本を読ませてレポートを書かせたり、徹夜で庭掃除させたり、難曲をピアノで弾かせたりして、音をあげさせていたそうだ。

「葉月さんは何もされなかったの?」
 成形したハンバーグをフライパンの上に置くと、真奈美さんが心配そうにまつ毛の長い瞳をこっちに向けた。美人に見つめられてちょっと緊張する。

 えーと、夜中のコンビニは思い当たる。もしや、あれは私を追い出そうとしてやっていた嫌がらせだったの?

「夜中のコンビニは行きましたけど。でも、なんで先生はアシスタントを追い出そうと?」
「なんか気の乗らないミッションをアシスタントになった女の子としなければいけないと言っていたけど」

 気の乗らないミッション……。
 
 何だろう?

 これから私、そのミッションを先生とする事になるの?

「ガリ子、ハンバーグ焦げてるよ」
 流星くんに言われて、フライパンを見ると真っ黒こげのハンバーグが出来ていた。やってしまった。
< 169 / 304 >

この作品をシェア

pagetop