先生と私の三ヶ月
「ところで先生、葉月さんと上手くいっているようですね」
 黒田がにやけた顔を向けてくる。

「いやあ、さっきはびっくりしましたよ。テラスで葉月さんと抱き合っていましたよね。アシスタント20人目の葉月さんでダメだったら、諦めますと言いましたが、上手くいって本当に良かったです」

 それまでのアシスタントたちと同じように、ガリ子もいじめて追い出すつもりだった。黒田が俺に恋愛小説を書かせるために、アシスタントと恋の実践をさせようとしていた事に、正直、抵抗があったし、どの子も薄っぺらく見えて、小説が書きたいと思う所まではいかなかった。

 しかし、ガリ子は違った。俺の嫌がらせは全く効かないし、辞めるどころか、キレて俺に水をかけた。真面目で大人しいだけの子だと思っていたから、その行動は読めなかった。水をかけられて腹が立つというよりも、面白く感じて、ガリ子に強く興味が湧いた。

 流星を迎えに川崎までガリ子と向かった時は死ぬかと思った。最初は高速での運転を怖がっていたが、ベンツを200キロのスピードで走らせやがった。俺だってそんなスピードは出した事がないのに。本当に一緒にいて飽きない奴だ。

 流星の事で家から追い出した時は、ガリ子の言葉が胸に突き刺さった。俺の小説が好きで、俺を精一杯支えたいなんて。あいつは俺に食事一つ作るのも、いつも一生懸命だった。家の掃除も、洗濯も、資料探しも。失敗する事もあったが、手を抜いていないのはわかった。全部、俺を支えたい想いからだったのかと思ったら、胸が熱くなった。
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