先生と私の三ヶ月
「さっき、真奈美さんの言葉を聞いて、私も同じ事を思いました。葉月さんを手放してしまうのはもったいないですよ。彼女は働き者だし、先生の事も好きそうですし」
できることなら、俺だってそうしたい。だが、ガリ子は結婚している。それに俺は……
「黒田。俺には子どもがいたんだ」
黒田が細い目を丸くした。
「俺と離婚した後、ひなこは16年前にパリで男の子を出産していたんだ。文人という名で、俺の子だ。文人はたった12歳であの爆発事件に巻き込まれて、ひなこと一緒に亡くなった。俺が文人の存在を知ったのは二人が亡くなった後だったよ。ひなこの日記帳を形見としてもらったんだ。そこに全部書いてあった。俺とのすれ違いから離婚した事、最後に俺に抱かれた時に出来たのが文人だって事、ひなこが俺を愛してくれていた事……」
俺はひなこに愛されていないのだとずっと思っていた。あの時、ひなこを信じる事が出来ていたら、俺は……。
「爆破のあったコンサートホールは今は綺麗に再建されていたよ。その横には真新しい犠牲者の名前が書かれた記念碑が立っていて、そこに、ひなこと文人の名前もあった。それを見た瞬間、俺の罪だと思った。俺の罪は文人の事を知らなかった事、ひなこを信じられなかった事だ。もし、17年前にひなこを信じていたら、ひなこと離婚する事はなく、今もひなこと文人は俺の側で生きていた。俺がひなこを信じられなかったから、二人を殺してしまったんだ。こんな俺がガリ子をそばに置いておける訳ないだろ」
瞼が熱い。目頭に手をあてると涙が溢れてくる。
「先生、思いつめ過ぎですよ。テロ事件は先生のせいじゃないし、ひなこさんだってお子さんの事を先生に何も伝えなかったのですから、知られたくなかったんでしょう。全部が先生のせいと言う訳ではありませんよ」
黒田はやっぱりいい奴だ。
真奈美には文人が俺の子だという事は言っていない。言ったら、真奈美もひなこと俺の離婚に責任を感じそうで言えなかった。
開けた窓から、庭で遊ぶ流星と真奈美と、ガリ子の笑い声が聞こえる。楽し気に笑う声を聞きながら、ひなこに悪い気がして胸が痛くなった。
できることなら、俺だってそうしたい。だが、ガリ子は結婚している。それに俺は……
「黒田。俺には子どもがいたんだ」
黒田が細い目を丸くした。
「俺と離婚した後、ひなこは16年前にパリで男の子を出産していたんだ。文人という名で、俺の子だ。文人はたった12歳であの爆発事件に巻き込まれて、ひなこと一緒に亡くなった。俺が文人の存在を知ったのは二人が亡くなった後だったよ。ひなこの日記帳を形見としてもらったんだ。そこに全部書いてあった。俺とのすれ違いから離婚した事、最後に俺に抱かれた時に出来たのが文人だって事、ひなこが俺を愛してくれていた事……」
俺はひなこに愛されていないのだとずっと思っていた。あの時、ひなこを信じる事が出来ていたら、俺は……。
「爆破のあったコンサートホールは今は綺麗に再建されていたよ。その横には真新しい犠牲者の名前が書かれた記念碑が立っていて、そこに、ひなこと文人の名前もあった。それを見た瞬間、俺の罪だと思った。俺の罪は文人の事を知らなかった事、ひなこを信じられなかった事だ。もし、17年前にひなこを信じていたら、ひなこと離婚する事はなく、今もひなこと文人は俺の側で生きていた。俺がひなこを信じられなかったから、二人を殺してしまったんだ。こんな俺がガリ子をそばに置いておける訳ないだろ」
瞼が熱い。目頭に手をあてると涙が溢れてくる。
「先生、思いつめ過ぎですよ。テロ事件は先生のせいじゃないし、ひなこさんだってお子さんの事を先生に何も伝えなかったのですから、知られたくなかったんでしょう。全部が先生のせいと言う訳ではありませんよ」
黒田はやっぱりいい奴だ。
真奈美には文人が俺の子だという事は言っていない。言ったら、真奈美もひなこと俺の離婚に責任を感じそうで言えなかった。
開けた窓から、庭で遊ぶ流星と真奈美と、ガリ子の笑い声が聞こえる。楽し気に笑う声を聞きながら、ひなこに悪い気がして胸が痛くなった。