先生と私の三ヶ月
「私たちの母親が出て行った所から話が始まるんだけどね。父がすぐに再婚して、新しい母とは上手くいかなかったの。それで私たち、まとめておじいちゃんの所、つまりこの家に預けられたの。私が6歳でお兄ちゃんが10歳の時だった。で、この家にひなちゃんが遊びに来てたのよ。おじいちゃん同士が親友だったから。ひなちゃんはお兄ちゃんと同じ年だったの。お兄ちゃん、お母さんが出て行ってから無表情な子になっちゃったんだけど、ひなちゃんのおかげでまた笑うようになったの」

 真奈美さんが思い出したように瞳を細めて微笑んだ。
 とても大切な思い出を話すような優しい表情だった。

「楽しかったな。ひなちゃんって明るくて元気で本当によく笑う人で、周りの人を幸せにする力を持ってたのよ。私とお兄ちゃんは両親の事でいじけていたから、ひなちゃんに癒されまくってたわよ」
 先生の小説に出てくるヒロインみたい。やっぱりモデルは元奥さんだったんだ。

「きっとお兄ちゃん、ひなちゃんが初恋よ」
 クスクスと真奈美さんが楽しげに笑った。
 
「初恋の人と結婚できたなんて、うらやましいですね」
 真奈美さんの表情が曇った。

「実は結婚した経緯がちょっと複雑で。お兄ちゃんはひなちゃんの事が好きで結婚したんだけど、ひなちゃんは別の人が好きだったの」
「えっ」
「それをお兄ちゃんが知ったのは結婚したあとだったんだけど。二人が結婚したのは二十歳の時。二人ともまだ大学生で、じいちゃんたちが二人をくっつけたの。そうしないといけない事情があったから」
「事情とは?」
 真美奈さんが息を飲んだ。
< 182 / 304 >

この作品をシェア

pagetop