先生と私の三ヶ月
 ちょっと待って。

 パリのテロ事件って……。

 ひなちゃんてまさか――!

「ピアニストの中村ひなこさんが先生の元奥さんなんですか?」
 真奈美さんの目が大きく見開かれた。

「そうよ。葉月さん、ひなちゃんを知っているの?」
「はい。ひなこさんは音大の先生の友達で。それで年に一度、夏に私が卒業した音大で特別講義を開いてくれていて」

 こんな事があるなんて……。
 まさかあの中村ひなこさんが先生の元奥さんだったなんて……。

「そっか。ひなちゃん、年に一度は日本に帰って来ていたんだ」
 真奈美さんの声が涙に滲んだ。

「はい。毎年、ご一緒させて頂きました。明るくて優しくて、それで綺麗で。私にとって憧れの存在でした」

 ひなこさんは私がなりたい自立した大人の女性だった。

「ひなちゃん、元気だった?」
「元気でした。よく笑う方で、ピアノのレッスンは厳しかったけど」

 ひなこさんに楽譜の解釈が出来ていないって、よく叱られたな。
 レッスン中は怖いけど、終わってからみんなでご飯を食べに行くのが楽しかった。文君とも仲良くなって……。

「お兄ちゃんと離婚した後、全く連絡を取っていなかったから心配だったの。良かった。葉月さんからひなちゃんの事を聞けて。本当に良かった」

 真奈美さんの目から大粒の涙が零れた。ごめんなさいと言って、泣く姿から物凄く、ひなこさんの事を心配していた事がわかる。

 そうだよね。真奈美さんにとって幼なじみの“ひなちゃん”だものね。ずっと気がかりだったんだろうな。

 なんか、私まで泣けて来た。

「ママ、どうしたの?」
 流星君がプールから駆けて来た。

「流星、なんでもないのよ」
 涙を拭いながら真奈美さんが流星君を見た。

「ガリ子、ママをいじめたんだな!」

 えっ……。

 流星君の手にはホースがあった。
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