先生と私の三ヶ月
 38度5分。
 体温計の数字を見て落ち込んだ。

「見せてみろ」
 私の手から先生が体温計を奪い、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「やっぱり熱あったな」
 ベッドの近くに座った先生が心配そうな表情を浮かべた。

 流星君が帰った次の日、いつも通り朝食の用意をしていたら、目眩がして、冷蔵庫から水を取り出した先生とぶつかってしまった。大丈夫だというのに先生に体温計を渡され、命令だと熱を測らせた。

 先生は大げさだと思っていたけど、まさか本当に熱があったなんて……。

「こんなに高い熱が出たの子どもの時以来です」
 小5の時、インフルエンザになったのを思い出した。

「今日は寝てろ」
「でも、先生のご飯が。それに洗濯とか掃除も」
 起き上がろうとしたら、先生に肩を掴まれて寝かされた。

「いいから寝てろって」
「お仕事ですから」
「いいか。よく考えてみろ。俺がもし高熱を出してるにも関わらず、仕事をしていたらどうする?」
「それは……ゆっくり休んで下さいと止めます」
「そういう事だ。わかったか?」
 うっ。反論の余地もない。

「はい。今日は休ませて頂きます」
「それでよし」
 大きな手が私の頭を撫でた。
 ちょっと固くて骨っぽい男の人の手。触れられる度に胸がときめいて、好きって気持ちがこみ上がってくる。

 パリで先生が好きだと気づいてから、気持ちは日々大きくなり、私だけの先生でいて欲しいという独占欲まで出て来た。

 昨日は正直、ひなこさんの話を聞いて胸が妬けたし、昨夜はいろんな事を考えて眠れなかった。

 今、私が悩んでいる事はひなこさんの事を知っていると、先生に伝えた方がいいのか、何も言わない方がいいのかだ。
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