先生と私の三ヶ月
 悩む理由は文人君の存在だ。

 ひなこさんには文人君というお子さんがいた。
 年齢から考えて、先生と離婚したあとに出産したお子さんだ。

 ひなこさんは結婚していなかった。
 文人君の父親の話も聞いた事がない。

 考えられるのは、先生の子どもという可能性と、先生と結婚している時に密かにつき合っていた人との子どもという可能性がある。

 真奈美さんの話によると、先生はひなこさんに好きな人がいると思って別れた。それが思い違いではなく、真実だとしたら?

 ひなこさんが先生と離婚したのは、先生以外の人の子どもを妊娠したと気づいたからではないだろうか?

 文人君が先生との結婚生活中に不倫相手との間に出来た子だとしたら、文人君の存在はさらに先生を傷つけるかもしれない。

 離婚した後も先生はまだひなこさんを愛している。
 ひなこさんの死に深く傷ついているのはそういう事ではないだろうか?

 やっぱり、ひなこさんの事は話せない。ひなこさんの事を話したら、私は文人君の事も話さずにはいられない。ひなこさんと過ごした時間よりも文人君といた事の方が多かったから。

「ガリ子、思いつめた顔してどうした?」
 先生が心配そうに私を見る。

「いえ、あの。本当に申し訳ないと思いまして」
「真面目な奴だな。余計な心配はするな。大丈夫だから。それにお前が早く治ってくれないと俺が心配で堪らないんだ」

 ベッドの端に座って先生が私の顔を覗き込んだ。

「お前が病気だと思うと、何も手がつかない」
 大きな手が私の頬に触れる。冷たく感じるのは熱があるせいだ。

 何も手がつかないだなんて……。
 先生、心から心配してくれているんだ。感動で目がうるうるする。
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