先生と私の三ヶ月
 薄く浮かんだ涙を拭うと、先生が「感動したか?」なんて、分かり切った事を聞いて来た。

「はい。感動しました」 
「熱がある時のガリ子は正直だな。いつもだったら違うって真っ赤になって怒るくせに」
「そんな事しませんよ」
「もっと感動する事を言ってやる」
 黒目の大きな瞳が優しく私を見つめた。

「ガリ子、世界で一番お前が大事だよ」

 普段よりも優しい低い声が胸に強く響いた。
 嬉し過ぎる。大好きな先生にそんな事言ってもらえるなんて。先生のバカ。もっと好きになっちゃうじゃない。瞼が熱い。こんな事で泣くもんかって思うのに……。

「どうだ?」
 照れくさそうに先生が笑った。

「もうっ、先生、病人を泣かせないで」
 嬉しさが涙になって滲んでくる。
 浮かんだ涙を先生が人差し指で優しく拭ってくれた。そういう所も胸がキュンとする。先生はズルイな。私の事をキュンキュンさせてばかりで。

「私もです」
「えっ」
「私も、世界で一番、先生が大事です」
 先生の瞳が驚いたように見開かれた。
 それから先生が、気まずそうに視線を逸らした。

 あれ? 先生の頬、少し赤い?

「お前な。そんな恥ずかしい事、面と向かって言うなよ」
 自分だって同じ事を言ったくせに。
 意外と先生はこういうのに弱い?

「お返しです」
 笑みを浮かべると、先生が「こいつ」と、私の頭をポンポンした。

 熱が出ているけど、なんか幸せ。

 好きな人と一緒にいる時間が幸せな時間だって知った気がする。
 ずっとこんな時間が続いて欲しい。9月30日が永遠に来なければいいのに。

 そうだった……。

 私が先生のそばにいられるのは9月30日までなんだ。
 だったら、先生を傷つけるような事はやっぱり言わない方がいい。

 ひなこさんの事は胸の中に仕舞っておこう。
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