先生と私の三ヶ月
「なんでお見合い結婚だってわかるんですか?」
 男がクスリと笑った。

「左手薬指に指輪があるから、まず結婚している事がわかる。そして、俺が近づいたら顔を真っ赤にしたし、俺を見る表情がぎこちない。旦那以外の異性に慣れていない証拠だ。だから見合い結婚という結論を出した」

 思わず両頬に触れた。
 熱い。男の言うように赤い顔してるかも。

「いいじゃないですか! お見合い結婚だって。私は幸せなんです」

「嘘だな。あんたは幸せじゃない。何か悩みを抱えている。あんたにとってすごく深刻な悩みだが、旦那は取り合ってくれない。実は夫婦仲がそんなによくない」

 なんて失礼な人なの! ズケズケと人のプライバシーに踏み込んで来て。完全に頭に来た。

「勝手に決めつけないで下さい! 主人とも仲良しだし、これから憧れの望月先生にも会えるし、面接も上手く行きそうだしで、盆と正月が一緒に来たような幸せでいっぱいなんです!」

 男が次の瞬間、アハハと豪快に笑い出した。

「盆と正月か。あんた意外と古風な表現すんだな」
 バカにしたような男の言い方にさらに腹が立つ。

「あなた一体何なんですか? 人に何者か聞いといて自分は名乗らないなんて、いくらなんでも失礼だと思いますけど!」

「それもそうだな。俺は」と男が言った所で黒田さんがサンルームに駆け込んで来た。

「望月先生! もう、ちゃんと書斎にいて下さいよー」
 信じられない単語が黒田さんの口から出た。
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