先生と私の三ヶ月
「やっぱり膝の上に乗せると、女の方が上になるよな」
 考えるように呟く先生はいたって真面目なようだ。やっぱりお仕事なんだ。やましい事は考えるな。私はただのマネキン、マネキン……。呪文のように繰り替えし、何とか心を落ち着ける。

「女からキスした方が自然か。よし、わかった。ガリ子、俺にキスしろ」

 はあ――!?

「ご、ご冗談を」
 心臓がまたバクバクと凄い速さで鳴り出した。
 カアッと顔中も熱くなる。

「冗談じゃない。ちゃんとやってくれないとイメージがつかめない」
「えっ、でも。キスって、唇に?」
「嫌なら、頬でいいから」

 頬……!

 先生の麗しい顔にキスするなんて、ハードルが高すぎる。

「そんなに俺にキスするのが嫌か?」
 上目遣いで睨まれて怖い。
 怒らせた?

「いえ、あの。やります」

 覚悟を決めて先生の頬に向かって唇を寄せる。
 唇が頬に触れる直前、先生と目が合った。

 ドキドキし過ぎて息が止まる。

 背中に回っていた先生の腕がいきなり、私の後頭部を抱き、私の顔は先生の頬から外れて肩の上に乗った。一段と先生のムスク系の甘い香りが濃くなる。

「せ、先生?」
 横を向くと先生の白い頬がある。
 この状態でもしやキス?
< 191 / 304 >

この作品をシェア

pagetop