先生と私の三ヶ月
 純ちゃんはまだ私と誰かを間違えている。私は北海道に行きたいなんて言っていないのに。

 はあと、息をつくと、「今日子ちゃん、大丈夫?」という声がした。
 お手洗いから出て来た叔母だった。

 叔母さんの顔を見たら、目元がお母さんに似ていて泣きたくなった。

「何かあった?」
「いえ。何でも。ちょっと疲れちゃって」
「あそこに椅子あるね。座ろうっか」
 廊下の端に竹の長いすがあった。
 叔母さんと一緒に長いすに腰かけた。

「純ちゃんに浮気でもされた?」
 叔母さんの言葉にびっくり。
「えっ」と、叔母さんを見ると明るい声で笑った。
「あら、図星?」
「いえ、そんな事は」
「なんか今日の純ちゃん見たら、二人の関係が変わった気がして。前は今日子ちゃんの方が純ちゃんに一生懸命な感じだったけど、今は逆みたいで」

 叔母さん鋭い。

「今日子ちゃんは真面目だから、許そうとしているんでしょう。浮気の一つや二つぐらい許してあげなさいって人もいるけど、それは子どもがいる場合ね。今日子ちゃんたちはまだ若いんだし、無理なら無理でもいいんじゃない」

 叔母さんは母と真逆な性格だった事を思い出した。
 母は真面目で一度結婚したら生涯添い遂げなければいけないという人だったけど、叔母さんは若い時に離婚して、再婚している。

「無理しなくてもいいんでしょうか?」
 叔母さんが頷いた。

「大事な事は今日子ちゃんが今、幸せかって事よ。姉さんも融通が利かない所があったけど、一番は今日子ちゃんの幸せを願っているはずよ。母親ってね、子どもの幸せが一番なのよ。だから、今日子ちゃんが幸せだと思う方に進みなさい」
 心強い言葉に涙ぐんだ。
 私が幸せだと思う方に進む。今まで考えた事もなかった。
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