先生と私の三ヶ月
 館山を出たのは午後3時頃だった。
 純ちゃんがセットしたカーナビの指示通りに富浦のインターから高速道路に入り、東京方面に向かった。

 苦手な高速道路だったけど、あまり車も走っていなく、走りやすい。横浜から川崎まで走った時に比べればずっとましだ。

 助手席に座る純ちゃんがカーステレオを操作して音楽を流した。パッヘルベルのカノンが流れて懐かしくなる。披露宴の時に私が選曲したBGMだった。次に流れた曲はその当時流行っていた洋楽だ。

「これって、披露宴で使った曲?」
 思わず質問した。
「そう。懐かしいだろ。昨日見つけたんだよ」
「本当、懐かしいね。この洋楽は純ちゃんが選曲したんだよね」
「ああ。今思うと臭すぎるバラードだったな。たしかキャンドルサービスの時に流れたよな」
「そうだった。キャンドルサービスの時で」
「俺、あの時も今日子の伯父さんに酒を飲まされてちょっとふらふらしてたんだよな」
「えー、そうだったの? そういえば青い顔してたね」
 切ない程、純ちゃんとの会話が弾んだ。
 純ちゃんと共通する思い出は私たちが夫婦でいる事を思い出させる。

 お見合いで初めて会ったのは品川のホテルだった。緊張し過ぎてケーキの味が全然わからなかった。次に会ったのも品川で、映画を観て、水族館にも行った。純ちゃんはサメに詳しくて、細かく種類を教えてくれた。釣りをしに純ちゃんと千葉にもよく行った。私ばかりが釣れて、不貞腐れていた純ちゃんが可笑しかった。

 純ちゃんに好きな人がいると気づいてから、私たちに楽しい思い出はないと思っていたけど、純ちゃんが私に優しくしてくれた事はちゃんとあった。純ちゃんは毎年、私の誕生日を祝ってくれる。出張でいない時も私の年の数の薔薇の花束が届いて嬉しかった。

 なんで今、思い出すんだろう。
 思い出したくなかった。
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