先生と私の三ヶ月
 アクアラインを通って中野のマンションに着いたのは午後5時過ぎだった。
 今日は先生にお休みをもらっていたけど、横浜に帰るつもりでいる。

「じゃあ、私行くから」
 マンション前で純ちゃんに声をかけた。
 純ちゃんに腕を掴まれた。

「行くってどこに?」
「横浜」
「あの小説家の所か?」
「そう」
「今日は休みじゃないのか?」
「休みだけど。でも、いろいろ用があるから」
「まだ怒ってるのか?」
 純ちゃんの声が弱々しく響いた。

 確かに私は純ちゃんに怒っている。
 でも、何に? パリでの事? いや、違う。もうその事はどうでもいい。
 じゃあ、帰りが一緒になった事? こうして関わっている事? 違う。もっと前から私は純ちゃんに怒っている事がある。

「今日子、ごめん。本当に悪かった。もうあんな事はしないから」
 前は絶対にそんな風に純ちゃんは謝らなかった。
 パリで会ってから純ちゃんは変わった。

「寝室だって別々だし今日ぐらい一緒にいてもいいだろ? ただ僕は今日子と話がしたいんだ。今まで僕はちゃんと今日子と話をして来なかった。その分を夫婦として埋めたいんだ」
 弱々しく微笑んだ純ちゃんが何だか可哀そう。
 今日は私の用事に付き合ってくれたし、純ちゃんが食べたがっていたかき玉うどんぐらいは作ってあげようか。
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