先生と私の三ヶ月
 303号室まで行き、インターホンを押すと、灰色の玄関扉を旦那が開けた。
 Tシャツ姿の旦那は無精ひげが生えていて、目の下にはくまが出来ていて、すさんだ感じがする。

「どうぞ」
「お邪魔します」
 靴を脱いで明るいメープル色の廊下を進んだ。
 廊下と同じ色の洒落た扉の先にはリビングダイニングらしき空間が広がっていた。
 全体的に部屋の色合いは明るく、女性が好きそうな雰囲気だった。
 きっと旦那よりもガリ子のセンスが出ているんだろう。

 しかし、綺麗好きなあいつらしくなく、リビングは汚れている。テーブルの上や、床にはカップラーメンの容器と、酒のビンや空き缶が転がっている。

 オレンジ色の皮ソファの上には開いたままのスーツケースと、ワイシャツ、スラックス、上着が何着も無造作に置かれていた。

 部屋には旦那の気配しかない。

「奥様は?」
 ダイニングテーブル前のカウンターキッチンに立つ旦那を見た。

「買い物に行っていますよ」
「奥の部屋に隠してるんじゃないでしょうね?」
「疑り深い人だな。好きなだけ探せばいいでしょう」
「探させてもらいます」

 リビングを挟むように他にドアが二つあった。
 まずは右側のドアを開けた。

 ベッドと机とパソコンと本棚が並ぶ部屋は旦那の部屋のようだった。
 念の為、クローゼットの中も見るがガリ子が隠れられるスペースはなさそうだ。

 次に左側のドアを開けた。電子ピアノと、本棚とベッドがあり、ガリ子の部屋らしかった。暖色系のインテリアでまとめた部屋は温かみがあり、落ち着く空間だ。

 本棚には俺の小説がデビュー作から最新作までが並んでいる。些細な事だが嬉しい。

 ベッドの上にアルバムが見開きになった状態で置かれていた。
 ウェディングドレス姿のガリ子と旦那が並んでいる写真だった。
 幸せそうな笑顔を浮かべるガリ子はずっと見ていたくなる程、綺麗だった。

 アルバムが開いた状態だったという事はガリ子が見ていたのか?

 なんとなくアルバムのページを捲り、最後のページを見てハッとした。
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