先生と私の三ヶ月
 最後のページは複数の女性と一緒に写っているものだった。その中にひなこの姿がある。どうしてひなことガリ子が同じ写真に写っているんだ?

 写真にプリントされた日付はパリテロ事件の一年前のもの。よく見ると背景に東京タワーが写っている。ひなこは俺と別れた後、ずっとパリにいたと思っていたが、日本にも来ていたのか。

 これは何の集まりの写真なんだ? 写っている女性たちは親し気な感じがする。ガリ子とひなこはどういう関係なんだ? 気になって仕方ない。

「気が済みましたか?」
 旦那が部屋に入って来た。

「この写真に写っているのは奥様のお友達ですか?」
 情報が欲しくて旦那に見せた。

「だから何だと言うんです」
 旦那が怒ったように答えた。

「教えて欲しいんです。ここに写っているのはピアニストの中村ひなこですよね?」
 ひなこの顔を指すと旦那がああと頷いた。

「今日子の音大の先生と知り合いとかって聞きましたけど。もういいでしょう。帰って下さい」

 音大の先生。そうか。ガリ子が卒業した音大はひなこの母校だった。
 さっき履歴書を見て気づいた。

「いえ。今日子さんが買い物から帰ってくるのを待ちます」
 旦那がはあ? と俺を睨んだ。

「帰って下さい。出かける用事が出来たんです」
「では、私はここで留守番をしていますから」
「よく知らない他人を置いて出掛けられると思いますか?」
「気にしないで下さい。今日子さんが帰って来るのを待つだけですから。それとも、今日子さんが買い物に行っているというのは嘘なんですか?」
「しつこい人だな。そうだよ。嘘だよ。今日子は僕に抱かれたのがショックで、昨日の朝出て行った。だからここで待っていても無駄だ」

 ガリ子が旦那に抱かれた……。
 心臓が凍りついた。

「望月さん、真っ青ですよ。今日子が僕に抱かれたのがショックですか?」
 胸倉をつかむと、旦那が笑った。

「夫婦が愛し合うのは当たり前の事ですよ。あなた、今日子に気があるんですか? 僕は絶対に離婚しませんから。今日子に手を出したら許しませんよ」
 自分の事を棚にあげて、こいつは! 腹が立った。旦那の頬を殴った。
 旦那がベッドの上に転がった。

「どれだけ奥さんを泣かせていると思っているんだ。ガリ子は、いや、今日子さんはあんたに女がいる事を知っているんだぞ!」
 旦那が驚いたように目を丸くした。
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