先生と私の三ヶ月
「はあ? 何言ってんだ。言いがかりだ!」
 旦那が起き上がり、殴りかかって来た。
 それを避け、俺は旦那の腕を掴んで投げ飛ばした。

 バタンと大きな音を立てて旦那が床に転がった。

「この野郎!」
 旦那が血走った目で向かってくる。
 旦那の蹴りがヒットし、今度は俺が床に転がった。すかさず旦那が馬乗りになり、俺の首を絞めるが、がら空きになっている旦那の脇腹にパンチをし、力が緩んだ所で逆に床に転がして、寝技を決めてやった。

「く、苦しい」
 首を締めあげると旦那が苦しそうに床を叩いた。

「今日子さんの苦しみはこんなもんじゃないんだ。今日子さんはずっとお前の浮気に耐えて来たんだぞ。いい奥さんでいようと我慢して、知っていても見て見ぬふりをして来て」

「嘘だ」
「嘘じゃない。俺は今日子さんから聞いたんだ」
「今日子から……」
「いつだったか、お前が公園で浮気相手と電話で話していたのを聞いたそうだ。その電話でお前は今日子さんに向けた事のない優しい声で、浮気相手に『愛している』と言っていたと、彼女は悲しそうに話していたよ」
 旦那が急に笑い出した。

「何がおかしい?」
「僕に好きな人がいるとわかった上で夫婦をやっていたって事はそれだけ今日子が僕を好きだって事だろう? 良かった。これで今日子に会いやすくなった」
「何を言っているんだ?」
「これから今日子と会う約束をしているんだ。今日子は僕から離れられないんだ。きっとすがってくる。僕たちは元通りの夫婦だ」
「あんた何言ってるんだ?」
「望月さん、放してくれないか? 仕度をしないと。今日子が待っているんだ。可愛がってやらないとね。それから今、僕に浮気相手はいないよ。別れたんだから。僕にやましい事は何もないんだよ」
 強気な笑みを旦那が浮かべる。
 こんな奴がガリ子の旦那だなんて許せない。
 ガリ子の所に行かせたくないが、旦那について行けばガリ子に会えるかもしれない。

 一番大事な事はガリ子に会う事だ。
 腹が立つが俺は旦那を解放した。
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