先生と私の三ヶ月
「えっ」
 純ちゃんが二回瞬きをし、困惑したような笑みを浮かべた。

「冗談だろ?」
「冗談じゃないよ」
「どうして……」
 小さな声で純ちゃんが呟き、そしてもう一度、どうしてと、切れ長の目を向けた。
 全くこうなる事を予想していなかったという顔をしている。

「私はもう純ちゃんの事を好きじゃないから」
 昨日の朝、実感した。純ちゃんには嫌悪感しかなかった。夫婦として限界だと思った。

「純ちゃんも私の事好きじゃないでしょう?」
 純ちゃんの瞳が揺れる。

「好きだよ。今日子」
 全く胸に響いてこない。気持ちのない言葉だってわかる。

「純ちゃんの好きな人はフランス人のご主人を持つ佐伯恵理さんでしょ?」
 純ちゃんの瞳が信じられないものを見るように見開かれた。

「私ね。昨日の夜から今朝まで恵理さんと一緒にいたの。恵理さんもご主人との夏休みで日本に旅行に来ていたの。それで私に連絡をくれて会う約束をしていたの。函館山のロープウェイ、ご主人と乗ったそうよ」
 純ちゃんは落ち着かない様子でテーブルを人差し指でトントンと小刻みに叩き出した。きっと私の話に動揺しているんだ。

 恵理さんと私がつながっているなんて、純ちゃんは想像もしていなかっただろう。
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