先生と私の三ヶ月
 私は純ちゃんにわかるように、パリで偶然恵理さんと会った経緯を丁寧に説明した。

「日本に帰って来てからも、毎日のように恵理さんとメッセージのやり取りをしてたの。それで、恵理さんが好きだった人が純ちゃんだって気づいた」

 純ちゃんを睨むと青い顔をしていた。

「私にヒントをくれたのは純ちゃんだよ。パリにいる時、純ちゃん私を訪ねて来たでしょう? あの日、恵理さんにも会っていたの。それで好きな人と別れたって話を聞いたばかりだったの。恵理さん、物凄く落ち込んでいた。そして、純ちゃんも落ち込んでいるように見えた。もしかしたら恵理さんが別れた相手が純ちゃんかもしれないって思ったの。そんな事ありえないって思ったけど。でも、一度そう思うと疑いって消えなくて。日本に帰ってからも気になって、恵理さんに純ちゃんが出張でいなかった日の予定を聞いてみたの。そしたら、恵理さんもパリにいなかった。一日だけじゃない、私がもしかしたらって思う日は全部、恵理さんもパリにいなかった」

 純ちゃんの顔色がますます青くなった。
 私を見つめる瞳が怯えているようにも見える。

「恵理さんも私が変な事ばかり聞くものだから純ちゃんの奥さんだって気づいたのよ。それで覚悟を決めて私に会ってくれたみたい。恵理さん、認めてくれたわよ。ごめんなさいって泣きながら私に土下座してくれた。『ずっと葉月さんの奥さんには悪いと思っていた』って話してくれた」

 思い出したら目頭が熱くなった。昨日はずっと恵理さんから純ちゃんと、どうやって始まって、どんな風に過ごして来たかという事を洗いざらい話してもらった。恵理さんも私も泣きながらだった。人生であんなに辛い夜はそうなかったかもしれない。
 せめてもの救いは恵理さんが誤魔化す事なく正直に話してくれた事だ。

「恵理さんと一晩中、話したのよ。だから私、純ちゃんと恵理さんがどんな風に会っていたか全部知っているの。純ちゃんの出張の半分が嘘だった事を知って、私、どんな気持ちになったと思う? 私の誕生日の時も、二度目の流産の時も、恵理さんに会っていたんだってね」

 純ちゃんが険しい表情のまま息を飲んだ。
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