先生と私の三ヶ月
「主人には葉月さんとの事を全て話しました」
「離婚するのか?」
「わかりません」
 純ちゃんがため息をついた。

「恵理が離婚するなら僕も離婚する。僕たちやり直せないか?」
 嘘でしょ? こんな時に私の目の前で恵理さんを口説くの?
 純ちゃんにとって一体私は何なの?

 腹が立って、テーブルを拳でダンっと強く叩いた。
 びくっと肩を揺らした純ちゃんがこっちを向く。

「そんなに恵理さんが好きだったら、なんで私と結婚したのよ! 結婚式の前日に恵理さんと思いが通じたんでしょ? 私との結婚中止に出来たよね?」
「やめられる訳ないだろ。結婚式には上司も親戚も招待したんだぞ!」
「何それ? 体裁の為に私と結婚したの?」
「そうだよ。世間体を気にして結婚したんだ」
「酷い」
「ああ、最低だよ。わかっているよ。僕だって苦しかったさ。こんな最低な結婚、二年ぐらい我慢したら離婚するつもりだった。だけど、今日子が流産したり、今日子のお父さんとお母さんが病気になって、亡くなったりするから、さすがに言い出せなかったし、恵理ともそのせいで別れたんだ」
「何それ? 私が悪いって言いたいの?」
「そうじゃないけど。でも、僕は恵理と別れて心を入れ替えようと思った。三か月の上海出張は心の整理をするいい機会だと思ったんだ」
「嘘つき! 七月にパリで恵理さんに会った時、口説いたくせに。今だって恵理さんが離婚したら、私と離婚すると言ったくせに」
 熱い感情の塊が喉まで込み上がってくる。体中に怒りが溢れた。

「それは……」
 純ちゃんが言葉を詰まらせた。
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