先生と私の三ヶ月
店を出る時、恵理さんに「今日子ちゃん」と話しかけられ、我慢していた涙が薄く浮かんだ。

 恵理さんの顔を見られなかった。
 恵理さんを無視して店を出て、そのままホテルから逃げ出した。

 恵理さんとは友達でいたかった。だけど、私の知らない所で純ちゃんとつき合っていたと思うとやはり許せない。
 一番許せなかったのは結婚式の前日だと知っていて、恵理さんが純ちゃんと関係を持った事だった。

「ガリ子」
 品川駅に向かって歩いていたら呼ばれた。
 振り向くと紺色のジャケットを着た先生がいた。

 びっくりした。先生には何も言っていなかったのに、どうしてここがわかったの? それよりも先生に謝らなきゃ。

「先生、すみません。無断で仕事を休んでしまって。本当にすみません」
 頭を下げると先生にぐりぐりと頭を撫でられた。

「よくやったな」
 先生の言葉にハッとした。
 まさかあのコーヒーラウンジに先生もいたの?

「私たちの事、見てたんですか?」
 先生が頷いた。

「ガリ子、立派だったぞ。ちゃんと行動して、旦那に気持ちをぶつけていたな」
 瞼の奥が熱い。先生の言葉が胸に響いた。

「せ、先生、私……」
 胸が締め付けられた。悲しくて、やるせなくて、どこに気持ちを持って行ったらいいのかわからない。
 愛情のない結婚だったけど、五年間の結婚生活が終わったと思ったら、胸が苦しくなった。

「ガリ子、大丈夫だ。大丈夫だから」
 先生が抱きしめてくれた。
 先生の胸が温かくて涙が溢れた。
< 233 / 304 >

この作品をシェア

pagetop