先生と私の三ヶ月
「あれですかね。悲しかったのは最初から私たちの結婚生活に愛がないって知ってしまったからですかね。しかも私、純ちゃんの好きな人と最近知り合っていて、一生の友達になれる人だと思っていたんですよ。なんか純ちゃんに裏切られたのも痛かったし、恵理さんにも裏切られた気がして痛いんですよね」

 この胸の痛みは純ちゃんだけではなく、恵理さんに対しても感じているものなんだって、口にしてみてわかった。

「恵理さんとはパリで会って、私がモンサンミッシェルにたどり着けるようにメモを書いてくれたんです。そのメモを困った時に見せるとみんな優しくしてくれたんです。それで、何て書いてあったのか知りたくて、日本に帰って来てから恵理さんに聞いたんです。そしたら……」

 感情がワッと溢れて喉の奥が締め付けられる。

「メモには『大事な私の妹です。彼女はフランス語がわかりません。助けてあげて下さい』って書いてあったらしくて。私、それを聞いて嬉しかったんです。本当に恵理さんがお姉さんみたいな気がして」

 目頭が熱くなった。目元を指で拭うと、先生がハンカチを差し出してくれた。ハンカチから先生のムスク系のコロンの匂いがして安心する。

「私、一人っ子ですから、兄弟に憧れていて。恵理さんみたいなお姉さんがいたらいいなって思っちゃったんですよね。まあ、それぐらい心を許していた恵理さんが純ちゃんの好きな人だったわけで」

 ハンカチから顔をあげると、先生が「それは痛い出会いだったな。だけど、良かったな」とムッとする事を言った。良い事なんて一つもない気がする。思わず眉間に皺が寄る。

「そんなに睨むな。茶化した訳でも、バカにした訳でもないから。彼女に会えたから、旦那の本性がわかったんだろう?それが良かったなって思ったんだ」
「あっ」
 確かにそう。恵理さんが教えてくれたから純ちゃんの嘘を知る事が出来た。
 そこまで気が回らなかった。気づけて良かった。
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