先生と私の三ヶ月
 午前10時、先生と私は鶴岡八幡宮に向かって歩いていた。
 先生が連れて来てくれたのは鎌倉だった。

 由比が浜から鶴岡八幡宮まで一直線に伸びる若宮大路は源頼朝が北条政子の安産祈願の為に作ったと先生が教えてくれた。参道内には大きな鳥居が三つあって、私たちは鎌倉駅近くの二の鳥居から一の鳥居に向かって歩いた。

 参道は道路の真ん中にあって車道より一段高くなっている。この歩道を段葛(だんかずら)と呼ぶ事も先生が教えてくれた。

 段葛の両端にはソメイヨシノが立ち、今は青々とした葉を茂らせているけど、春になると見事な桜並木道になるそう。春になったらまた来ようかなんて先生に言われて嬉しくなる。

 一の鳥居まで来ると先生が気づいたか?と私を見た。
 うん?と首を傾げて、歩いて来た段葛をよく見ると二の鳥居の前よりも歩道の幅が少し狭くなっている気がする。という事を話すと先生が正解と笑った。

「えっ、本当に狭くなっているんですか? どうして?」
「遠近法だよ。道を実際より長く見せる為に二の鳥居から一の鳥居に向けて少しずつ歩道の幅が狭くなっているんだ」
「なるほど。でも、なんで?」
「敵に攻められた時の事を考えて作られたんだろうな。距離感を誤魔化す事が出来るし、道幅が狭いと敵も身動きが出来ず攻撃しづらいだろうしな」
「敵って聞いてピンと来ないけど、この段葛は鎌倉時代に作られたから、(いくさ)の事を考えて作られてるんですね」
 今の平和な街の様子からは戦に出る武士たちの姿は全く想像がつかない。

「鎌倉時代に生まれていたら先生も戦に行ってたのかな。先生、背が高いから強そう。きっと武将になってますよ」
 思わず武将スタイルの先生を想像してしまう。武将になってもカッコイイ気がする。
「お前は鎌倉時代に生まれていたら畑仕事をしていそうだ。農家の娘スタイルも可愛いな」
 クスクスと先生が笑った。
「じゃあ、私は戦に出た先生が無事に帰ってくるのを畑仕事をしながら待つとします」
「お前、なんでそういう可愛い事を言うんだ」
 先生がギュッと私の手を握った。
「キュンキュンしたじゃないか」
 ほんのり頬を赤く染めた先生が可愛い。
「先生でも赤くなるんですね」
 目が合うと一緒に先生と笑った。
 なんて楽しんだろう。
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